これまでのキャリアについて話をする事になった。
目の前の学生たちが一番知りたいであろう事を思い浮かべながら、
私はこれまでに携わってきた仕事を頭の中で整理していた。
私の原点とも言える、あるイベントがあった。
クライアントの方々へ、日頃の感謝を伝える為に、何が出来るのか。
コレクションの世界観や想いを形にすること。
私が企画をしたのは、お花のコレクションからインスピレーションを得て、
ブティックの一角にお花屋さんをオープンさせる事。
そこにはブーケティエがいて、その場でクライアント一人一人にあったブーケを作りプレゼントをする。
用意されたブーケではなく、目の前で作って差し上げる、その人を想う気持ちを形に残したかった。
臨時のお花屋さんなど、簡単に通るはずもないと思った企画は、
ボスがもっと美しい企画を加えて、本国へ提案し夢を叶えてくれた。
そのイベントの為に本国からも出張者が来る事になった。
ブティックでは美しいお花のコレクションと、お花屋さんがオープン。
別のフロアはガーデンパーティーをイメージして、
芝をひき、あらゆる場所にお花を飾り、お花が溢れた空間。
そこでピクニック気分を味わってもらいたくて
プティフールは、持ち歩けるよう小さなバスケットの中にセッティングをした。
想像するだけでも美しい空間だが、
そこには決して忘れることの出来ない、お花の美しい香りが満ちていた。
私たちが感動してしまう程、
クライアントの喜びを目の前で感じられることが出来、ビジネスとしては成功したと私は思う。
その話をしている中で、
目の前に座っている彼女たちの、就職活動に疲れが出始めたその表情が和らぎ、
目に力が宿り始めた瞬間を見た。
もちろん、全員ではない。
しかしながら、確実に表情が変わっていく様子は、
やはり感性と愛に溢れた仕事が、こんなにも人々に華やぎを与えることが出来ることの証明と、
これを機に、迷える彼女たちの何かの導きとなればと思わずには居られなかった。
現在の激しい時の流れのなかで、インプットもアウトプットも完全に間に合わないまま、
それでも前に進まなければならない、
決断を迫られ踏み出さなければならない中で、
大切にすべき事。
誰でもなく私自身が大切にしているものに向き合えた時。
当時のボスにも感謝を伝えにいきたい。
そして、最後にもう一つ。
このイベントにおける最高に美しい空間を作っている前夜、私は大切な友人を亡くし、彼女のお通夜に出向いていた。
夜遅くにブティックに戻った時、
スタッフ皆がこの美しい空間を作っているその姿だけでも涙が溢れそうになり、
そして別のフロアへ移動する間、まだお花は見えていないのにも関わらず、
お花たちの美しい香りが、辺り一面に広がり
それを思い切り吸い込んだ先に、
天国のようにあたたかで、美しいお花が溢れたその空間に立った時、
身体全体が深く感動していた事を忘れられない。
3年前の出来事をこうして反芻するだけでもエネルギーが溢れてくる。
目に見えないものに本質が宿る。